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大学院入試のために

 

橋本努

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以下の内容は、大学生との会話の中から生まれたものです。

 

ご批判・ご意見・ご感想・アドバイスなどをお寄せいただければ幸いです。

 

皆様の意見を取入れて、よりよいものにしていきたいと思っています。

 

 

 

・【先生に面会しよう】

これだけ情報があふれているにもかかわらず、大学院受験に関する情報は、まだまだ不足している。情報が得られないために、まったく勘違いをした受験勉強をしている人も多い。大学院受験の情報を得るために、大手の予備校に通う人もいるようだ。しかしなによりも重要となるのは、自分が受けようと思っている大学院の先生方に直接話を聞くことだ。そして実際に、その大学院に通う大学院生を紹介してもらって、大学院生から情報を得ることだ。このアクションを最初に起こすかどうかによって、その後の人生にかなりの違いが出てくるだろう。

 

私は大学院を受ける際に、指導教官の鬼塚雄丞先生の紹介で、山脇直司先生にお会いした。いろいろとお話を伺うことができた。目指す大学院の先生にお会いすることで、大学院に対するイメージが具体的になった。当時一介の学部生にすぎなかった私に時間を割いてくださった山脇先生に、改めて感謝したい。いまでもあのときの会話を強烈に思い出す。

 

 

 

・【大学院に入るまでに何をすべきか】

最近の大学院は、定員の増加にともなって、簡単な試験にパスするだけで入学できるようになっている。しかし一流の研究者を目指すのであれば、「英語」と「基礎科目(例えばミクロ経済学)」と「専門科目(例えば国際金融論)」の三つを、できるだけ高い水準で習得しておきたい。二流の研究者を目指すのであれば、このうちの二つを、あるいは三流の研究者を目指すのであれば、どれか一つをマスターしたい。ただし、三流の研究者というのは最初から目指すものではないので、大学院入試ではそうした勉強の仕方を避けなければならない。

 

ここで「できるだけ高い水準で」というのは、例えば英語で言えば、英検準一級のレベル、基礎科目でいえば、すぐれた教科書を三回勉強して120%理解する、というようなものだ。そのためには、勉強会や検定試験などを合わせて利用したい。

 

 

 

・【大学院受験は情報戦である】

大学入試と違って、大学院入試の場合、試験勉強についての情報がなかなか外部の人に届かない。また試験問題も、出題する先生の主観的な好みによって出題されることが多い。ちなみに私の場合、大学院入試の問題を作ってくれと頼まれてから、だいたい三〇分以内で問題を作り、それが実際に出題されることになる。というわけで、どのような問題が出るかについて予想するためには、出題する先生たちの研究と講義内容を把握しておく必要がある。試しに、その先生の研究業績、講義内容、ゼミ内容の三つを把握しておこう。あるいはまた、前年度にその大学院に合格した人たちの勉強の仕方を知ることができれば、大変助かる。しかしそのような情報は、なかなか得られないのが実情だ。大学院受験は情報戦である。情報が入れば、問題は意外と簡単であるが、情報が入らなければ、問題は難しく感じるものである。

 

 東大の大学院のある学科では、ある三冊の本を読めばほぼ合格する、というところがある。実際、ある外部の学生(地方の二流大学に所属)は、東大の大学院生からその情報を何とか得て、その大学院に合格した。情報を得たものの勝ちである。しかしこうした情報が広まると、試験問題の傾向は変わっていくにちがいない。情報戦を乗り切るためには、少なくとも受験の半年前までに、大学の先生や大学院生にアクセスすることを勧めたい。受験の直前になってから情報を与えてくれる先生や大学院生はいない。何事もはやく準備することが大切だ。

 

 

 

・【大学院を受けようと思ったら、最初にすること】

 大学院を受けてみようかどうかと迷ったら、とりあえず次のような作業をすすめながら、自分の進路を考えていきたい。

 

@受ける大学院の過去問を入手しよう。最近、大学側は、大学院生の数を増やすために、過去の大学院試験問題を公開し、また、受験の際してどの本を読めばよいかを指定するところもでてきている。こうした情報をなるべく早く得ておきたい。

 

過去問を入手できない場合は、とりあえず事務局に強く要求してみよう。いまどき過去問を入手できないというのは、大学運営として問題があるのではないか、と事務局に訴えてみることが望ましい。批判が多くなればなるほど、大学側は真剣に対応するようになると期待できるからである。

 

A大学受験で覚えた(あるいは覚えるべきであった)英単語の復習をはじめよう。さらに、英文読解の勉強をはじめよう。例えば、毎日、英字新聞の社説を読んで、単語を調べながら重要な文章に線引き、さらに200-400字程度の要約を作ってみよう。

 

B自分に合った指導教官を探しはじめよう。教官の業績プロフィール(各大学で作っている)を入手したり、また、どの大学にどのような先生がいてどのような研究をしているのかについて、情報を集めてみよう。そしてそれらの先生が大学院時代にどのような業績を作って大学に職を得たのかについて、調べてみよう。

 

C自分の研究テーマを考えてみよう。できれば関連する諸テーマを含めて、五〜六コの研究テーマを挙げてみよう。いくつかのテーマを念頭において、いろいろな情報を調べてみてから、テーマを絞り込んでいくことが相応しい。

 

D研究で読むべき学術論文や学術書をリスト・アップしてみよう。ためしにまず、一〇〇冊程度の文献とその著者名を暗記していこう。この暗記は、入試の面接で大いに役立つ。

 

E現在の指導教官や別の教官に、大学院受験についてアドバイスを受けてみよう。

 

F大学院進学を志望する理由を書いてみよう。

 

Gその研究分野に関する専門の「辞典」「事典」類を買って、好きなところからつまみ読みをはじめよう。その際、専門用語については、日本語と英語の両方で覚えていきたい。

 

H自分の研究のキーワードを三つ挙げてみよう。そしてそのキーワードを、各種の専門的な辞典で調べ、一通り暗記してみよう。この作業もまた、入試の面接で役立つだろう。

 

 

 

・【さっそく大学院の授業を見学して受講する】

大学院の受験を思い立ったら、とにかくまず、受験する大学院の授業を見学してみよう。他大学の大学院の授業にも出席してみたい。見学はいつでも可能なので、あとは行動力あるのみである。また、多くの大学では、学部生であっても大学院の授業に出席することができるので、学部生のうちに大学院の授業を受講してみたいものだ。大学院の授業は、必ずしも高度な内容とは限らない。最近は留学生も増えているので、内容のレベルは低く設定されていることが多い。また大学院の授業に学部生が出席すると、今度は大学院生も緊張して勉強するので、お互いに刺激しあうようである。

 

とにかく大学院の授業を一つでも受講して、先生や院生たちから大学院に関する情報を多く集めてみよう。積極的に行動すれば、大学院受験に失敗する可能性は少なくなる。逆に言えば、大学院受験に失敗する多くの学生は、早い段階で行動力を発揮しなかったということだ。その大学院で何を求められているのかについて把握するためには、見学することが一番である。大学院受験は情報戦である。情報は足で集めるほかない。

 

 

 

・【大学院生たちの私的な研究会に参加しよう】

大学院生たちは、自主的に小規模な研究会を組織して、情報交換をし、またディスカッションの力を磨いている。研究会を通じた交流のネットワークは、授業、学会、E-mailなどによる交流よりも、はるかに有意義であり、自分の研究を活性化するための絶好の機会である。院生主導の研究会は、関心や意欲のある部外者を大歓迎している。研究会についての情報は、ホーム・ページから情報を得て任意の大学院生にE-mailを送るか、または実際に院生室に足を運んで獲得しよう。一度研究会に出席すれば、以後はメールで案内を送ってくれることもある。何ごとも最初は、「めんどうな情報収集」と「連絡をとる勇気」が大切である。

 

あるいは大学院受験者たちのあいだで私的な勉強会を開くことも効果的である。東大のある大学院では、私的勉強会に参加した人たちのほとんどが合格して、他の受験生が合格しなかった、という事例もある。受験に際して重要なのは、ライバルをみつけて切磋琢磨することだ。大学院進学を希望する人の中には、同世代との対人関係が下手で、切磋琢磨の関係を築けないという人がいる。そういった学生は伸び悩むことになるかもしれない。

 

 

 

・【大学院進学のために、卒論の研究テーマを設定する】

大学院入試の面接や筆記試験においては、自分の研究テーマについて説明することになる。これから卒論に向けてどのように準備するのか、また、大学院ではどのような研究をしたいのか。この二つの点について、語ることになるだろう。そこで入試の前に、あらかじめ次の点を押さえておきたい。

 

□大学院であなたが研究したいテーマについて、自分の指導教官に承認を得るだけでなく、他の教官にも承認してもらう必要がある。そうでないと、指導教官とあなただけの閉鎖的な関係になり、研究のリスクが大きくなってしまう。とくに学界であまり評価されていない先生に指導されると、自分の研究が学界でどの程度の評価を受けるのか、見失ってしまうことにもなる。だから大学院受験をする半年前には、他の先生の研究室を訪れて、いろいろなアドバイスを得ておこう。

 

□同様に、あなたの研究したいテーマについて、他大学の著名な研究者が評価してくれるかどうか、という点も気になる。自分の指導教官以外に、あなたの研究テーマを誰が最も評価してくれるのか。その人に自分の卒論を送ることを想定して、研究を進めよう。あなたの研究テーマを評価してくれる先生が他にいなければ、そのテーマは需要がないということになるので、気をつけたい。

 

□あなたの研究テーマには、英語(ないし他の外国語)の重要な文献が含まれているだろうか。自分の研究のために英語文献を読むように計画しておくと、同時に英文読解の勉強にもなる。そして、大学院入試のための英語勉強にも役立つ。いまの時期から少しずつ英語の文献を読んでいけば、あなたの研究は将来大きな花を咲かせるだろう。だから卒論では、読むに値する英語論文を含めて計画してみたい。どの文献がよいのかについては、指導教官と相談してみよう。

 

□あなたが卒論で研究するテーマは、大学院進学後にどのような発展可能性があるだろうか。その展望を語ってみよう。研究の発展可能性がなければ、どんなに面白いテーマで卒論を書いても、大学院では研究を続けることができない。逆に、研究の発展可能性が広がりすぎても、今度は手に負えなくなってしまう。自分の研究をコントロールするためには、大学院に入ってからどのような「基本文献」を読むことになるのか、あらかじめリスト・アップをしておきたい。

 

□自分の研究の基礎トレーニングについて、明確にしておこう。あなたの学問の基礎は、近代経済学の基礎理論か、統計技術か、数学か、フィールドワークか、哲学か、第二外国語か……。まずこのような選択肢の中から、自分の研究テーマの基礎となるトレーニングを一つか二つ決めておきたい。学部時代に基礎トレーニングを怠ると、あなたの研究は途中で行き詰まってしまうことになる。

 

□あなたが目指す学問の「講義科目名」は何か。よくあることだが、自分で面白いと思った研究の分野が、大学の講義科目としては設置されていない場合がある。例えば、進化経済学に興味をもったとして、しかしそのような講義科目はまだほとんど設置されていない。こうしたケースでは、あなたは自分でえらんだ研究テーマを探究しても、適切な職を得られないかもしれない。したがってまず、あなたが大学の先生になったら教えるであろう一般的な講義科目名を一つ想定して、その科目名の基礎文献をリスト・アップし、またその分野で活躍している著名な学者たちについて調べておきたい。

 

□あなたの研究テーマは、どのような問題関心から設定されたのか。またその研究テーマはどのような問題群を扱うのか。大学院入試の面接では、これらの点について質問されることが多い。あらかじめ答えられるようにしておこう。その際、たまたまゼミで読んだテキストに興味を持った、という程度の問題関心では、研究者になる資質を疑われてしまうので、注意しよう。研究テーマは、自分でいろいろな社会経験をしたり、あるいは自分で読書をすすめる中で、つかみ取らなければならない。

 

 

 

・【大学院を目指す人のために「研究生」制度を充実させよう】

現在、多くの大学は大学院教育を充実させるために、大学院生の数を増やそうとしている。大学院入試の試験も簡単になっており、以前より合格しやすいようだ。しかしそれでも合格できない場合がある。とくに外部の大学生にとって、大学院の試験は難しい。どのような試験勉強をすればよいのかについて、情報量や指導の面でハンディがあるからである。そこで、大学側は大学院を志望する外部の大学生や卒業生を、まず「研究生」として受け入れてはどうだろうか。研究生とは、講義やゼミに自由に出席でき、さらに図書館を使うことができる身分をいう。取得すべき単位はない。学費は、正規の学生の半額である。

 

 大学院を志望する者は、その大学において指導を受けたい先生にまず連絡を取って会いに行く。そしてその先生が認めれば、だれでも研究生の身分を得ることができるようにする。このようにすれば、大学院に合格する人は増えるだろうし、一度大学院受験に失敗しても、再度挑戦して合格する可能性が大きくなるだろう。これまで研究生というのは、留学生や博士課程希望者に限られてきた。これからは、修士課程希望者にも広く研究生の身分を与えていくべきだ。まず、大学院修士課程の試験に失敗した人たち全員に、研究生という制度の案内を送る、ということからはじめてみてはどうか。大学院の活性化のために、研究生制度を充実させてみてはどうだろうか。

 

 

 

・【大学院受験に失敗したら】

大学院受験に失敗したら、とりあえず指導教官のところに相談に行こう。考えるべきことは、なぜ失敗したのか、そして今後の進路をどうするかである。あなたの進路選択は、来年度に大学院を再受験するか、大学院受験と就職活動の両方をするか、それとも大学院をあきらめるか、のいずれかである。

 

 大学院を再受験する場合、留年するか、卒業して無職となるか、あるいは「研究生」という身分を手に入れるか、決めなければならない。自分がいま在籍している大学の大学院を受ける場合には、留年することが望ましい。しかし別の大学の大学院しか志望していない場合は、志望大学の研究生になることが望ましい。研究生は、その大学の講義に出席することができ、図書館を使うことができ、担当の先生に若干の指導をしてもらえる。年間31万円くらいの学費がかかる(授業料の三分の二:2000年度現在)。研究生としてやらなければならない義務(定期試験や雑用など)はない。ただし、大学によっては、学部を卒業しただけでは研究生になれなかったり、研究生の募集締め切りが早いところもある。あるいは修了時に、研究成果として論文の提出を求められるところもある。だから大学院を受ける前に、研究生の採用について、大学の事務局に問い合わせてみよう。

 

 実際に研究生になるためには、これから大学院で指導してもらいたい先生のところに、電話かE・メールで「研究生になりたい」という意志を自分で伝えなければならない。そしてその先生に直接お会いして、自分が研究生としてふさわしいことをアピールしなければならない。その先生があなたを研究生として採用したいと個人的に決めれば、それで多くの場合、研究生になることができる。研究生になれば、その大学の大学院を受験するための、最もよい環境を得たことになろう。しかしこれで大学院に受かると保証されたわけではないので、別の大学院を受験することも考えておきたい。

 

 

 

・【大学院入試までに】

 おそらく大学院受験が難しいのは、たんに受験勉強をするだけでなく、自分の研究について語ることが求められるからだろう。大学院受験における面接の際には、以下の点について述べられるようにしておこう。

 

□専門分野、□指導教官、□基礎科目(理論・思想・統計・数学など)、□基礎トレーニング用の教科書(数冊)、□専門分野の第一人者たち(数名)、□あなたの研究にとって最も重要な日本語文献(一冊)、□あなたの研究にとって最も重要な英語文献(一冊)、□所属すべき日本の学会、□読むべき専門雑誌(英語)、□すぐれた模範となる専門論文、□これなら自分にも書けるだろうと思わせる学術論文(自分の専門分野の三流論文)、□研究テーマに関する問題百個、□研究テーマに関する文献百本、□これまで書いたレポートの中で、最もすぐれたもの、□その専門分野の海外における拠点大学、□卒論のテーマ、□これまでに面会した教員、□専門分野の古典的著作のリスト、□その専門分野において定評のある辞書・辞典類、□すぐれた卒論のサンプル、□すぐれた修士論文のサンプル。

 

 

 

・【英語の勉強について】

多くの大学院志望者は、「なんとなく意味はわかる」という程度に専門分野の英語を読めるけれども、読むのが遅く、いざ訳そうとしても日本語としてぎこちない、という段階にある。英語の能力を満たしていないために、大学院へ進学できないという人も多い。英語力で苦しんでいる学生は、これまで英語を優先的に勉強しなかったことに、ひどく反省させられることになる。英語の勉強は、後回しにすればするほど嫌になるものだ。嫌になると、勉強の能率もますます落ちていく。英語の力に自信がない人は、どんなことがあっても英語の勉強を優先しなければならない。とにかく英語だけでいい。英検でいえば「準一級」のレベルを目指して、がむしゃらに勉強してみよう。

 

 

 

・【外国語を勉強しなければならない理由】

研究者を目指すのであれば、とにがく語学の勉強を勧めたい。会話ではなくて、読解の方である。なぜか。その理由はいくつかある。

 

 @あなたがもし独創的な研究者になる自信を持っていれば、語学の勉強は必要ない。日本語で読める範囲で論文や本を読み、独創的な研究成果を発表すればいい。(ただし、これまでの経験からいえば、語学に劣る独創的な研究者は現れていない。)逆にもし、あなたが独創的な研究をする自信をもっていなければ、とりあえず、海外の研究動向を日本の学者たちに知らせることで、日本の学界に貢献することを考えよう。研究者として最低限必要な能力は、海外の研究動向を紹介する論文(レビュー)を書くことである。まずは、信頼できる紹介論文を書くための英語力を目標としたい。

 

 Aまた、外国語の文献を読んで論文を書いた方が、あなたは研究者として高く評価される。同じレベルの論文でも、日本語の参考文献ばかり読んで論文を書いた大学院生は、評価が低い。同じ内容の論文を、日本語の参考文献ばかりを読んで書いた場合と、英語の参考文献を多く読んで書いた場合とでは、論文の価値はおそらく三倍くらい異なる。これが韓国語やフランス語の論文を読んで書いたとなれば、日本語の参考文献を読んだ場合と比べて、一〇倍くらい論文の価値が上がるだろう。(ただしこの倍率は私の主観的評価である。)

 

 なぜそれほど論文の価値が異なるのかといえば、あなたの論文は、日本のアカデミズムにどれだけ貢献できたかによって判断されるからである。日本語の文献を読んで、あまり独創的な研究をしなければ、日本のアカデミズムには貢献できない。これに対して海外の動向を紹介する論文を書くならば、日本のアカデミズムの幅を広げることに貢献できる。あなたは独創的な研究者になれるかもしれないし、なれないかもしれない。だからまずは危険を回避するためにも、語学を勉強し、最近の海外研究動向を紹介できるようになることを勧めたい。多くの独創的な研究者も、まずはこの方法でアプローチしている。このレベルをクリアすれば、その後で自分のやりたい研究に挑戦すればいい。

 

 B英語で論文を書いたり、学会報告のレポート文を書いたりすると、就職に有利である。英語で論文を書ける人は、ある大学の英語科に就職できたりする場合もある。英語の論文を書くことには時間がかかるが、努力すれば誰にでもできる。論文の内容は大したものでなくてもいい。英語の論文を書くというだけで高く評価されるのだから、積極的にチャレンジしてみたい。

 

 C入試の英語の点がギリギリで大学院に進学した場合、その人は、研究能力の低い人だとみなされてしまう。例えば、「○○さんは、英語の点数が50点でギリギリだったんだよね」、といううわさが学内に広がったりもする。こうなると、あなたは研究者になるための素質を疑われているわけだ。そのような場合には、修士課程一年目の研究時間をすべて英語に捧げよう。そして留学することを念頭に、英語の検定試験に挑戦しよう。

 

 

 

・【英語力の目標】

□多くの大学院入試では、すぐれた訳文=翻訳を速く正確に作ることが最大の目標となっている。そうした英語力を習得するためには、毎日少しずつ、正確な訳文を作るというトレーニングが必要となる。英文和訳の基礎力があれば、とりあえず海外の研究を日本に紹介するという仕事をすることができる。あなたがもし独創的な研究をするのでなければ、翻訳能力を身につけたい。翻訳によって、海外の研究動向を日本の学界に伝えるという「伝達者」の役割を引き受けてみたい。翻訳の仕事は、努力すれば基本的に誰でもできるはずだ。だから英語を訳すテクニックを、時間をかけて誰かに教えてもらおう。

 

□京都大学の学部入試における長文読解のレベルを目標にしてみよう。大学院の入試では、基本的に長文読解力が重視されるので、すくなくとも長文読解だけは、一流大学の学部入試レベルをクリアしておきたい。そのための問題集として、私は「Z会」の「京大英語」(EKコース、9月から)を勧めたい。下線部和訳と英作文を重視しているからである。このレベルの英語力で、大学院入試の水準をパスすることができる。(この通信添削は最低3か月より。以降は、一か月単位で自由に脱会できる。新規入会金2,000円、会費月額5,000円。)また、駿台予備校講師・伊藤和夫『英文解釈教室』は受験参考書の古典であるが、時代によって適切な参考書は変化するので、いろいろと情報を集めなければならない。なお、河合塾などの予備校から出版されている「京都大学受験のための模試問題集」といったものも有用であろう。

 

□英単語を覚える。私の場合、A6サイズのノートを単語帳にして書き出し、重要な単語については「単語カード」を作成した。これを電車の中とか、歩いているときに覚えていく。また単語については、いろいろな専門書の「著者名・事項索引」に英語と日本語の対照が載っているので、大いに利用しよう。専門分野の辞書類も、英単語力をつけるために買う必要がある。

 

□大学院入試の過去問を解いてみよう。

 

□英語の本の序文・第一章を訳していく。英語の入試では、それほど専門的な内容の問題が出るわけではない。多くの場合、雑誌のコラム記事や、有名な著作の序章や第一章といった導入的部分から出題される。したがって入試対策のためには、英字新聞を読むことと、有名な本の序章や第一章を訳していくということが正攻法であろう。

 

 

 

・【英語勉強の極意】

いったい英語をどの程度勉強しなければならないのか。勉強の仕方について不安に思ったら、例えば和田秀樹著『新・受験の技法――東大合格の極意』新評論における「東大用の読解力の分析」106-124頁、が参考になるだろう。この本には英語の長文読解について、いろいろな受験技法が紹介されている。例えば「1分間で100-150語の読解スピードが目標」「長文の大量“読み込み”がもたらす二つの効用」「読み込み期の初期に設定する精読期」「『速読英単語』で、読みながらの単語補強を!」「単語は順番でなく“虫食い的”に調べろ!」「『英語長文問題精講』を入口にする精読術」「“電話帳”[全国主要大学の入試問題集のこと]で、一日6長文読み込め!」などなど。どれも有効なアドバイスである。まずはこうした技法が存在することを知っておきたい。そして英語勉強のイメージ・トレーニングをしてみたい。

 

 

 

・【英語力を維持する】

多くの受験生は、大学院入試の際に英語の点数が満たなくて、足切りをされてしまう。英語力が満たない理由は、大学時代に英語に触れる機会が少なかったからであろう。大学院入試に必要な英語力は、京都大学の二次試験の英語力(長文和訳と要約力)をすこし難しくしたレベルだ。この程度の英語力をつけるためには、例えば、大学受験生の家庭教師をするというのはどうであろう。とりあえず、大学受験生に英語を教えるというレベルにまで、自分の英語力を引き上げたい。私は大学生の学部時代に、高校三年生の家庭教師を毎年引き受けることで、なんとか英語力を維持した。自分の英語力のためだと思えば、時給を安くしてでも家庭教師をやる価値があるだろう。

 

 家庭教師の他に塾講師という方法もある。あるいは、例えば英語の語学学校に通って、TOEFLなどの試験を目指すことも勧めたい。さらに、通学時間を利用して、English JournalNHKラジオ英会話などのカセット教材を、毎日一時間くらい聴いてみるのも効果的だ。そのほか、できれば一か月くらいの短期語学留学をして、英語の必要性を肌で感じとっておきたい。

 

 

 

・【英語を読むスピードについて】

英語を読むスピードをどの程度まで速くすべきであろうか。最初の目標は、英文一頁を、辞書を引きながら一時間で読む、というレベルであろう。ここからさらに、一頁を約二〇分程度で読み、内容を的確に把握することが目標となる。大学院入試の準備を始めてから3か月もすれば、長文読解のスピードは三倍くらいにする上昇するだろう。読むスピードを意識しながら、英語の勉強に取り組みたい。

 

大学院の英語試験問題は、内容としては大学入試のレベルとそれほど変わらない。しかし大学院の入試では、若干の専門用語が加わり、また読む際のスピードが要求されている。入試では英文和訳問題が中心であるから、読解と和訳を速くこなす力を鍛えておきたい。おそらく辞書を片手に時間をかければ、誰でも全体の八割は訳せる違いない。しかし身につけるべきは、辞書に頼らないで速く訳す力だ。速さは英文読解への「慣れ」から生まれる。慣れるまで英文読解に親しむほかない。