ウェーバー『支配の諸類型』(世良訳)
『経済と社会』第一部「社会学的範疇論」第三章「支配の諸類型」
第一節 正当性の妥当
1. 支配の定義・条件および種類、正当性
・【支配】:特定の命令に対して、一群の人々に服従を見出し得るチャンスのこと。(3)
→「したがって、他人に対して『力』や『影響力』を及ぼしうるあらゆる種類のチャンスが、すべて『支配』であるというわけではない。」「服従することに対する利害関心があるということが、あらゆる真正な支配関係の要件である。」
→利害関心という動機は、支配の信頼しうる基礎を形成し得るものではない。もう一つの別の動機、「正当性の信仰」がつけ加わる。「すべての支配は、その『正当性』に対する信仰を喚起し、それを育成しようと努めている。」(4)
→支配の種類を、正当性の要求という点から区別することができる。
・「区別の出発点として、この出発点を選び、他の出発点を選ばないのが正しいかどうかは、[この方法を用いて]どれだけの成果が上げられるかということによってのみ判定されうる。」(5)
・「習律によってまたは法によって保証されているすべての『請求権』が、支配関係と呼ばれるわれではない。もしそう呼ばれるとすると、労働者はその賃金請求権の範囲内で雇主の『ヘル』であるということになるだろう。」→直接的服従の場合が「支配」。
・「現実の世界では厳密な区別はしばしば不可能であるが、それゆえにこそ、明確な概念がますますもって必要になるのである。」(6)
・「一つの支配に対する従順性が、すべて、第一次的に(あるいはそこまでいわなくても総じて、常に)、この[正当性]信仰に準拠しているなどということは、とても言えない。従順は、個々人や集団全体によって、まったくの便宜的な理由から偽装され、物質的な・自分の利害関係から実際に行われ、個人的な弱さやよるべなさからやむを得ないものとして甘受されるというようなことがありうる。」
・【服従】:「服従者が、命令の内容を、――それが命令であるということ自体のゆえに、しかももっぱら形式的な服従関係だけのゆえに、命令自体の価値または非価値について自己の見解を顧慮することなく、――自己の行為の格率としたかのごとくに、彼の行為が経過するということである。」(7)
2.正当的支配の三つの純粋型:合理的・伝統的・カリスマ的支配
【合法的支配】:合理的な性格のもの。制定された諸秩序の合法性と、これらの秩序によって支配の行使の任務を与えられた者の命令権の合法性とに対する、信仰に基づいたもの。
【伝統的支配】:昔から妥当してきた伝統の神聖性と、これらの伝統によって権威を与えられた者の正当性とに対する、日常的信仰に基づいたもの。
【カリスマ的支配】:ある人と彼によって啓示されあるいは作られた諸秩序との神聖性・または英雄的力・または模範性、に対する非日常的な帰依に基づいたもの。
|
制度的 |
非制度的 |
人格的 |
伝統的支配 |
カリスマ的支配 |
非人格的 |
合法的支配 |
|
第二節 官僚制的行政幹部を伴う合法的支配
3.合法的支配、官僚制的行政幹部による純粋型
(1)任意の法が、協定または指令によって、合理的な(目的合理的・価値合理的な)志向をもって、制定されうるという観念。(13)
(2)抽象的な・通常は意識的に制定された諸規則の体系。
(3)合法的なヘルの発する指令は、この非人格的な秩序に準拠している。(14)
(4)服従者は、仲間(国家においては市民)としてのみ、また「法」に対してのみ服従するのだという観念。
(5)合理的に限界づけられた・ザッハリッヒな管轄権の範囲内でのみ、服従の義務を負うのだ、という観念。@継続的な・規則に拘束された経営(Betrieb)。A権限。B官職階層制。C手続きの規則。D行政手段(官職財産)と行政幹部の私的所有物との完全な分離。E官職地位の非専有。F行政の文書主義。(14-16)
4.つづき
・「合法的支配のもっとも純粋な類型は、官僚制的行政幹部による支配である。」(20)
【単独制官吏の特徴】:@人格的には自由であり、ただザッハリッヒな官職義務に服するのみであり、A明確な官職階層制の中にあり、B明確な官職権限を持ち、C契約によって、したがって(原理的には)自由な選抜によって、D専門資格にもとづいて、E貨幣形態での定額の俸給を報酬として受け、F自己の官職を唯一のまたは主たる職業として扱い、G昇進を前途に期待し、H完全に行政手段から分離されて、I厳格で統一的な官職規律や統制に服している。(20-21)
5.官僚制的=単一支配制的行政
・「純粋に官僚制的な行政、すなわち官僚制的=単一支配的な・文書による行政は、あらゆる経験に徴して、精確性・恒常性・規律・厳格性・信頼の点で、したがって――ヘルにとっても利害関係者にとっても――計算可能性を備えている点で、また仕事の集約性と外延性の点で、さらにあらゆる任務に対して形式的には普遍的に適用できるという点で、それは、支配の行使の形式的にはもっとも合理的な形態である。あらゆる領域における『近代的な』団体形式の発展(国家、教会、軍隊、政党、経済的経営、利害関係者団体、社団、財団、その他何であれ)は、官僚制的行政の発展およびその不断の成長と、端的に同一のことである。」(26-27)
・「われわれの全日常生活は、この枠の中にはめ込まれている。……われわれは、行政の『官僚制化』かその『ディレッタント化』か、そのいずれかを選びうるのみなのである。」(27)
・「官僚制的装置は、権力を獲得した革命のためにも、占領敵軍のためにも、従来の合法的政府に対すると同様に、通常はそのまま機能し続けるものである。問題はいつも、現存の官僚制的装置を支配するのは誰かということなのである。」(28)
・「およそ合理的な社会主義は、この要求をそのまま引き継がざるを得ず、……この要求こそ、宿命的不可避性を生み出すものである。わずかに、(政治的・教権制的・組合的・経済的な)小経営のみが、大幅に官僚制なしにすましうるだけであろう。」
・知識のうえで官僚制に対抗することができるのは、資本主義的な企業者のみ。(29)
◆官僚制的支配の特徴
@水準化の傾向:もっともよく専門的資格を備えた人々の中から、広く要員を採用しようとする傾向。A金権制化の傾向:できるだけ長い間、専門的訓練を続けさせようとするため。B形式主義的な非人格性の支配。(30)
・官僚制化は、どこにおいても、大衆民主制の進展に不可避に伴う影である。
・官僚制の精神:@形式主義。A被支配者の福利を増進するために、その行政任務を、実質的・功利主義的な見地から取り扱おうとする官吏の傾向。(30-31)
第三節 伝統的支配
6.伝統的支配
・「支配団体は、もっとも単純なケースでは、基本的には、教育の共同によって規定されたピエテート団体である。支配者は、『上司』ではなくて人格としてのヘルであり、彼の行政幹部は、基本的には『官吏』からではなく、人格的な『しもべ』からなり、被支配者は、団体の『成員』ではなく、伝統的な仲間か、あるいは『臣民』であるかである。ザッハリッヒな官職義務ではなく、人的なしもべの誠実が、行政幹部のヘルに対する関係を規定している。」(33)
→その命令の妥当性:
@[実質的に伝統に拘束されたヘルの行為の領域]:指令の内容を一義的に規定するごとき伝統に基づいて、また、伝統の信ぜられた意味と規範との限界内において。
A[実質的に伝統から自由なヘルの行為の領域]:伝統がそれだけの余地を恣意に与えているとき、ヘルの自由な意志によって。(34)
・【伝統主義的革命】:権力の伝統的な制限を無視したヘルの支配行使に対して抵抗すること。体制そのものに対する抵抗ではない。
→伝統的支配の行政幹部には、次のものが欠如している。
@ザッハリッヒな規則による明確な「権限」。A明確で合理的な[官職]階層制。B自由な契約による規律立てられた任命と、規律立てられた昇進。C(規範としての)専門的訓練。D定額(しばしば貨幣で支払われる)の俸給。(38)
7a.伝統的支配の類型:長老制、家父長制、家産制(44-)
・【長老制】:最長老が、神聖な伝統の最良の精通者として、支配を行使している状態。
・【家父長制】:多くは基本的に経済的で家族的な(家)団体の内部で、明確な相続規則によって定められる個々人が、支配を行使している状態。
→これらの類型には、行政幹部が存在しない。したがって、成員は、臣民ではなく仲間Genosse-nである。彼らはヘルに対して服従意欲を持ち、服従を義務づけられている。彼らは、制定された規則に従うのではなく、伝統に従っており、ヘル自身もこの伝統に拘束されている。(45)
・【家産制】と【スルタン制】:ヘルの準個人的な行政幹部が成立する。「ヘルの権利は固有権となり、所有物と同じ仕方でヘルに所有され、なんらかの経済的チャンスと原理的には同様に処分(売買、質入れ、相続分割)可能なものになる。ヘルは、…伝統への拘束を犠牲にして、伝統から自由な恣意や恩恵や恩寵オンチョウの範囲を拡大してゆく。家産制的支配とは、基本的には伝統的な志向をもつが・しかし完全な固有権に基づいて行使される・あらゆる支配をいい、スルタン制的支配とは、その行政のあり方の点で、第一次的には伝統に拘束されない自由な恣意の領域で動くような、家産制的支配をいう。両者の相違は全く流動的である。」(46)
・「スルタン」:イスラム世界において非宗教的統治権を所有した専制君主の称号。
9a.伝統的支配と経済
・伝統的な心情を強化することによる経済の支配。もっとも強く働くのは、長老制と家父長制である。
・家産制では、@実物ライトゥルギー[納付]的な需要充足(実物貢租と賦役)を伴うヘルのオイコス。A身分制的な特権付与による需要充足。B営利経済/手数料/租税による需要充足。→【政治寄生的資本主義】
・家父長制と家産制に内在している「実質的な志向」をもって経済を規整しようとする傾向から、形式的な合理性は破壊され、商人資本主義、官職売買的資本主義、御用商人的・戦費調達的資本主義、植民地的資本主義などが土着する。(63-64)
第四節 カリスマ的支配
10. カリスマ的支配、その特徴とその共同社会関係
・「『カリスマ』とは、非日常的なものとみなされた(元来は、予言者にあっても、医術師にあっても、法の賢者にあっても、狩猟の指導者にあっても、軍事的英雄にあっても、呪術的条件に基づくものと見なされた)・ある人物の資質をいう。この資質ゆえに、彼は、超自然的または超人間的または少なくとも特殊非日常的な・誰でもがもちうるとはいえないような力や性質を恵まれていると評価され、あるいは神から遣わされたものとして、あるいは模範的として、またそれゆえに『指導者』として評価されることになる。……その資質が、カリスマ的被支配者、すなわち『帰依者』によって、事実上どのように評価されるか、ということだけが問題である。」(70)
・「カリスマの妥当を決定するのは、証し――始原的には、つねに奇跡によって――によって保証された、啓示への帰依・英雄崇拝・指導者への信頼から生まれるところの、被支配者による自由な承認である。……この『承認』は、心理学的には、熱狂やあるいは苦悩と希望とから生まれた・敬虔な・まったく人格的な帰依である。」(71)
・「使徒や従士は、(原理的には)ヘルとの間に愛の共産主義ないしは戦友共産主義を形成して、後援資金のかたちで調達された財貨によって生活する。」(72)
・個人カリスマの証しによる妥当という点では、純粋に「人民投票的な」支配者(ナポレオンなど)についても予言者や軍事的英雄についても、全く同様に当てはまる。(74)
第五節 カリスマの日常化
11. カリスマの日常化とその影響
・カリスマ関係が永続的になると、伝統化や合理化が推進される。@関係の存続をもとめる利害関心。A自分(行政幹部)の地位が理念的にも物質的にも永続的な日常的基礎の上に置かれるようなかたちで存続することへの利害関心。(80-81)
・後継者問題の解決:@伝統化、A合理化。
第七節 カリスマの没支配的な解釈がえ
◆指導者民主制
・団体がしだいに合理化されてゆくにつれて、カリスマ的権威の被支配者による承認は、「正当性の結果」ではなくて、「正当性の根拠」とみなされる。→民主制的正当性。ヘルは今や、自由に選挙された指導者に転化する。(138)
・法の取り扱い方は、合法的な観念に近づいていく。もっとも重要な過渡的類型は、人民投票的支配である。近代国家に置ける「政党指導者制」。(139)
・大衆の信頼を獲得するための適合的な手段は、人民投票である。ナポレオンのケース。
→被支配者たちの自由な信頼から、支配の正当性を引き出すための独自の手段である。
・「人民投票的民主制」は、指導者民主制のもっとも重要な類型であるが、これは、一種のカリスマ的支配である。指導者は、被支配者の承認によって支配を獲得するが、事実上は、彼の政治的従士団たちの帰依にもとづいて支配する。僭主、デマゴーグ、クロムウェルの独裁。革命的権力所有者。など。(140)
・これに対して指導者なき民主制は、人間の人間に対する支配を極小化しようとする。(141)