研究院長・学院長・学部長からのメッセージ

経済学者に騙されないために経済学を学ぶ

久保田 肇

北海道大学大学院経済学研究院長
久保田 肇

「経済学を学ぶ理由は,経済学者に騙されないためだ」と,英国の経済学者ジョーン・ロビンソンは言いました。学者や評論家が,経済に関する議論し,政策提言をしていることを,新聞やテレビで目にする機会は多いはずです。時には,政府がこれらの政策を実施することさえあります。しかし,このような政策が想定外の結果になってしまった場合,その影響を大きく受けるのは,他でもない私達国民です。そのような状況を避けるため,つまり自分自身を守るには,実施される政策の帰結を私達自身が判断できなくてはなりません。ジョーン・ロビンソンの言いたかった経済学を学ぶ理由はここにあります。

「経済」という言葉は,「世を經(おさ)め,民を濟(すく)う」という意味の熟語である“經世濟民”を略したものです。経済は元来,経済学の範囲だけにはとどまらず「世の中(社会全体)をよくして人々を幸せにすること」をあらわす概念です。経済学研究院・経済学院では経済学,経営学,会計学,統計学など非常に幅広い領域を扱います。それはまさに,『社会全体を良い方向へ導き人々を幸せにする』ための学問群です。

現代社会は,ますます複雑化しています。これにともない,当大学院も,時代の要請に応える形で変わってきました。2000年の大学院重点化によって研究主導型大学院としての体制を確立し,2004年からは工学研究院や法学研究院と共に公共政策大学院に参画しています。2005年には会計専門職大学院を新設。そして2011年には「地域経済経営ネットワーク研究センター」を設立し,地域経済や経営の研究に取り組み,地域社会への支援体制を強化してきました。また,2018年からは,スウェーデン・韓国・台湾の海外三大学との間で,修士課程のダブル・ディグリー・プログラムを締結し,提携校と北大それぞれから修士号が取得できるようになりました。学部生のための早期履修制度では,学部入学から修士課程までを5年で修了することができます。さらに2017年度には,従来の体制を教員が所属し研究を行う経済学研究院と大学院教育を行う経済学院に改組し,経済学研究院に所属する教員が経済学院以外の大学院でも教育に携われるようになりました。この改組により,国際食資源学院にも他研究院と共に参画しています。

複雑で移ろいやすい社会だからこそ,その本質を理解するための学問的知見がますます重要になっています。「経済学者に騙されない」,「この社会を良い方向へ導き人々を幸せにするための学問を身につけたい」,そうした高い志をもつ人々が,経済学研究院・経済学院に集うことを大いに期待しています。